位置付け

津別町に設計したゲストハウス設計を進める中で大事に進めてきた項目は3点あります。

  1. 既存建物を活かしつつゲストの満足度を高める
  2. DIYを前提とした内容とする
  3. コミュニケーションの核となる

まちを変えるゲストハウスは、まちを知るための入り口であり、コミュニケーションの中心地であり、多様な活動の受け皿となります。

訪れたゲストには津別町ならではの町の生活を感じてもらう為に、また、まちの生活の一部として機能する為にも、場所の選定から設計者が関わりました。その場所の特性と、ゲストハウスとしていかせる建物かどうかアドバイスもしていきました。物件選定に知識・情報も必要ですが、スピード感も重要であり、その選定から設計チームと運営支援チームが全力で関わっていきました。

何軒か候補を挙げながら、物件のどこを見たら良いのか目利きの技術力が上がってきました。ちょうどその頃、良い物件の情報が入りました。上記三点が満足出来そうな候補でした。メンバーの同意が得られるとすぐに設計検討に入りました。

既存建物

既存建物は町の中心部の通り沿いにあり、道東エリアリノベーションの中で住民の皆さんと一緒に改修・竣工した道東テレビ・コワーキングスペースJIMBAから徒歩1分の距離にある好条件の立地でした。建物は1階が元商店で、2階部分が住居です。築40年程度の建物でしたが、状態は比較的良くDIYで工事を進めるには適度な物件と判断出来ました。具体的な設計を進める前にリノベーションの場合は状態確認が重要な作業となります。既存建物の診断作業は、経験値が必要です。年代、構造、地域特性、建物の使用履歴などを踏まえた診断となるからです。今回の物件に関しては、雪が溜まるエリアの壁内部の腐食が見られましたが、補修が可能と判断出来る程度のものでした。

間取りについては、1階の商店部分が、ゲストハウスのコモンスペースとして、そして、地域の方が足を踏み入れやすい広い間口出ある事も手伝ってとても魅力的な空間が出来ると感じられました。

上記のようにこの建物の利点は、好立地であり、また、既存建物の状態も良い状態でした。また懸念点としては、寒冷地・積雪地であるため、結露やすが漏れなどによる見えない部材の腐食がある。長く使われていなかったことがあるので、給排水設備の劣化が激しいこと。前者はMNAPの経験値と地元建築関係者の知見を借りしながらあまり大きな問題はなさそうだとの結論に至りました。また、後者の給排水設備はそのまま利用することは諦め、全面的に改修工事を行うこととなりました。

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改修計画

改修計画を進めるにあたり、ゲストの居心地の良さを追求しながら進めていきました。ゲストハウスとしての居心地の良さは、ゲストルームも重要ですが、重視したのはコモンスペースでした。運営支援チームの意見も合わせて設計を進めました。コモンスペースでどんな時間が過ごせるか、どんなコミュニケーションが取れるのかを想定しながら、部屋の広さ、水場の位置、帳場の位置、椅子の配置、イベント時の設えなど様々な検討を繰り返していきました。

コモンスペースは以前店舗であった場所を改装しているので、通りに広く開いています。地域の人にも中の様子がうかがえる為、町に新しい場所が出来たというアピール度の高い施設となっています。開かれた小さなコモンスペースではありますが、奥行きのあるスペースなので、積極的にコミュニケーション取りたいゲストや、静かに時間を過ごしたいゲストなど様々なの過ごし方に対応出来るスペースとしました。

共用のキッチンスペースは、ゲストのためでもありますし、イベント時の重要なアイテムともなるのでその位置と大きさは慎重に検討しました。

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この場所だからできたこと

DIYで空間を作り出すことで、時間と苦労をともにする仲間が仲間を呼び、作業の輪が広がっていきます。これは、事業を始める前から、大きな宣伝にもなります。また、地域の方とゲストがコミュニケーションを取り、ここでしか得られない体験を得るためにも、地元の方々との深い結びつきがDIY作業を通じて得られます。この場所を通じた作業によって、固有のコミュニティーが形成されていきます。そしてそれが、宿泊するゲストの体験へと結びついていきます。

そんな作業の輪が広がる中でも、今回の計画で特徴的だったのが、地元のアーティストとの共同作業です。津別町に美術館を構えるしげちゃんこと大西さんとその若い仲間との協力で、インテリアのイメージや装飾を手掛けていただき、この場所にしかないとても特徴的な空間となっていきました。地元の方々の熱意が伝播して協力を得ることが出来ました。

また、DIYにおいては作業だけでなく、その作業の合間にも地元の多くの方々が差し入れをいただき、毎回とても盛り上がりました。このような状況は設計だけではデザイン出来ないDIY施工ならではの建物の成り立ちとなります。

発展性

オーナーが自らDIYする事で、建物への理解が深まり、気軽に修繕に乗り出せます。同時に社会状況の変化にも、この精神を活かし柔軟に対応しています。ゲストハウスの閑散期に施設の更新や、機能の追加・変更など、セルフビルドは終わらず続けられます。その際にも町の人が関わり、関心のあるゲストにノウハウを伝授しDIY仲間の輪が更に広がっていきます。常に発展を続け、町の魅力を発信し続けるゲストハウスになっています。