アーキテクト・イン・レジデンス

まちづくりに関わる際、町の方々との距離感を縮めるために比較的ゆっくりとした長めの時間を過ごすようにしています。とはいえ観光ではありませんので、わたしたちが何者で、どんなことを考えているのか話題を提供しながら意思疎通を図ろうとする企画がアーキテクト・イン・レジデンスです。今回の津別町では、町の中心地にある五叉路の空き家を借りて我々の拠点とし、そこで設計やDIY家具作りや模型の展示を行うことで、町の方々とコミュニケーションを図る試みを行いました。

会議やイベント、ワークショップなどの枠組みが決まった場での関係性ではなく、なんとなく話しかけられる関係性を少しでも作りたいという考えで滞在していました。

その場所の素材

現地でPCを使って設計を進めてもあまりコミュニケーションのきっかけが生まれないので、少し目立つ物作りを行いました。折角であれば子ども達に参加してもらったり、地元の素材を利用して興味を持ってもらうように工夫しています。

今回は、地元の産業である合板を利用した、子ども達と作る巣箱づくりや、その合板の製造過程で発生する廃棄物を利用した家具づくりなど様々な試みを行いました。

アレンジとデザイン

廃棄物である丸棒材は、板材や角材と違い加工が難しく工作にはあまり向かない材料です。そのため地元でも木杭や塀への利用は見受けられましたが、それ以外の利用は積極的に行われていませんでした。

そこでデジタルデータを利用した加工技術の組み合わせでこれまでの使い方とは違うアレンジが可能となると考えました。この椅子では、骨格の部分はCADデータを元に複雑な形状を機械加工しています。一方加工の難しい丸棒は、電動ドリルで穴を空けるだけです。組立は、加工した合板に、丸棒を差し込むだけで出来上がり、至って簡単です。

これらを、滞在中に製作していきます。人の目を惹きつけるデザインとする事で、コミュニケーションのきっかけとなります。「何を作ってるんですか?」「それって座れるんですか?」「SNSで見たんですけどどんな椅子か見たくなってきました。」など様々な声かけをされました。こんなことで、気軽に声をかけてもらい、コミュニケーションのきっかけとしていきました。

デジタルだからできる手仕事でまちと繋がる

デジタルによる設計と加工技術の組み合わせにより複雑な形状や組み合わせも比較的手軽に作り出すことができるようになってきています。これは地元で生産されている合板を使用した巣箱づくりです。こちらも複雑な形状を機械加工することで、実際に手を動かす工程はとても減ります。危ない機械や特別に器用な方でなくとも簡単に組み立てることが出来ます。モノづくりへのハードルを下げ、一緒に時間を過ごすことで、我々が行おうとしている町づくりのビジョンを共有したり、DIYワークショップへの参加を促したりしていきました。

出会いのチャンネルを作り出す

これまでと違った角度で素材に光を当てることで、まちの資産を再発見するきっかけとなります。また、これらの企画をSNSを通じて広く認知してもらい、DIYのワークショップへの導入機会にもなります。お付き合いや義務感の動員で参加するのではなく、このようなアーキテクトインレジデンスの企画を通じて楽しさを感じて、積極的にDIYに参加してもらえる方々と出会えるチャンネルを作り出していくこともMNAPの特徴となっています。